ルース・フランシスコ『暁に消えた微笑み』(2004)

暁に消えた微笑み (ヴィレッジブックス)

暁に消えた微笑み (ヴィレッジブックス)

カリフォルニアの美しい朝。浜辺に漂着したのは一本の美しい腕。その薬指には、ダイヤの指輪が煌めいていた。開巻早々に立ち現われるこのシーンの与えるインパクトは相当のものです。第一章は、その腕の第一発見者である名無しの釣り人の視点と、婚約者に突然振られ逆上した青年スコットの視点とが交互に繰り返されるカットバック形式で進んでいきます。
男たちが揃って「女神のような」を称賛するローラこそがこの物語の中心人物であり、彼女の存在、そしてその唐突な失踪によって、ほかの登場人物たちは己の欲望や過去に直面させられることになります。彼女は果たして生きているのか、漂着した腕は彼女のものなのか、犯人はスコットなのか。作者の手の中で、読者はひたすら弄ばれることになるでしょう。
ただの愚か者なのか、あるいは恐るべき真犯人なのか、そのどちらとも言えないスコットは、この作品の影の主人公です。己の利益を最優先し、そのためには自分の大切な人を踏みにじっても屁とも思わぬ男。自分の非を認めず、何か他のものに責任を転嫁し、徹底的な自己弁護を試みるクズ野郎。そんなスコット君が、この物語の中でいかに罪を重ね、決して這い上がることのできない泥沼に沈むことになるのか。それとなくジム・トンプスン『ポップ1280』に登場したニック・コーリーなどを思わせる名脇役で、個人的には大変堪能しました。

上質なサスペンス小説で、しかも万人が楽しめる良作だと思います。表紙はどう見てもロマサスですが、騙されたと思って読んでみてください。後悔はしないと思います。