ポール・ドハティー『神の家の災い』(1992)

神の家の災い (創元推理文庫)

神の家の災い (創元推理文庫)

摂政の宴に招かれたクランストン検死官は、四人もの人間を殺した〈緋色の部屋〉の謎を解くはめになる。一方、アセルスタン修道士の教会では、改修中に発見された骨が治癒の奇跡を起こしたと評判になっていた。さらに、かつてアセルスタンが籍を置いた修道院で、神をも恐れぬ連続殺人が発生する……。いずれも手ごわい三つの謎に、さしもの名コンビも苦戦する、人気シリーズ第三弾。(裏表紙あらすじより)

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ミステリ風の歴史ものとして読めば面白い作品です。というよりは、本格ミステリとして読むにはあまりにもトリック・ロジックが大雑把。まあ、今更そんなものを期待してこの作者の作品を読む人もあまりいないでしょうけれど。
この作品では主人公であるアセルスタンとクランストンが、それぞれ「自分自身の事件」を抱え込むことになります。これらは解くことができなければ身の破滅、という大変な問題です。ミステリとしては他愛もないものですが、これに立ち向かう二人の心情や行動を巧みに描くことで、キャラクターとしての深みが増したように感じました。

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もう一つの、修道院連続殺人についてですが、〈ブレーメンヒルデガルド〉のネタを説明なしで理解できる人は、まずいないのではないかと思います。完全に神学上の知識なので。私は、先日大学の授業で『ソフィーの世界』の映画版の一部を視聴させられ、そこで出てきたので、すぐに分かってしまい、ちょっと残念でした。

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ドハティーがなぜ本格として読むと面白くないのかを少し考えたのですが、おそらくミステリ的な謎に対するフォーカスが緩いからではないかと思います。ドハティー自身は、13世紀の(あるいは各時代の)風俗を映す方に興味があるのであって、ミステリは完全に味付けなんでしょうね、多分。

次の"The Anger of the God"は密室物らしいのですが、これまでの作品で推して知るべしな内容なのではないかと思います。まあ、読んでみないとわかりませんけど。

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今回の「三つの謎」というプロットからディー判事ものの長編作品を思い出しました。