エドワード・D・ホック『サイモン・アークの事件簿Ⅰ』(2008)

サイモン・アークの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)

サイモン・アークの事件簿〈1〉 (創元推理文庫)

73人もの人間が崖から飛びおりた、謎の大量自殺事件を取材に出かけたわたしは、現場の村で不思議な男性と知り合う。悪魔や超常現象を追い求め続け、その年齢は2000歳とも噂される彼の名は、サイモン・アーク――。ホックのデビュー短編「死者の村」を巻頭に、世界中で起こる怪奇な事件の数々に、オカルト探偵が快刀乱麻の推理力で挑む10編を収録した、待望の第一短編集。(裏表紙あらすじより)

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オカルト探偵サイモン・アークの短編集。昨年、「わが社の隠し玉」で見かけて以来楽しみにしていたら、二月にホックが死んでしまい、2008年のこのミス期間中にも出なかったので、もう今年は出ないのかと思ったら、12月末、あたかもクリスマスに合わせるかのように投下されました。ホックの自選傑作集と聞いていたので非常に楽しみにしていたんですが……期待が高すぎたかなあ。

この短編集、収録作品が最初期から比較的最近のものまで手広くセレクトされているので、ホックの作風の変遷を端的に見て取ることができる、その意味では興味深い作品です。
初期作品は、オカルト色が強く、探偵であるアークも不可思議な人物として描かれる短編となっています。この短編集では「死者の村」から「霧の中の埋葬」までの四編がそれにあたり、「魔術師の日」などは人物の入れ替わりが激しい好編となっています。しかし、やはり本格ミステリとしてはロジックに不満の残る部分が少なくありません。
それ以降の作品(「狼男を撃った男」から「キルトを縫わないキルター」まで)では、アークの、在野のオカルト研究家という立ち位置こそ変わらないものの、概ね普通人として描かれています。まあ、作中時間が30年以上流れているのに年を取らない、という時点で不思議な人物ではありますが。作品の傾向も、オカルトは味付け程度に変わり、また、一見オカルト的なネタと見せかけて、まったく異なる、世俗的なアプローチから事件が解決されることが多くなります。その中では最後の「キルトを縫わないキルター」が、『サム・ホーソーンの事件簿Ⅴ』でホックが見せた、二段三段のプロットを思わせる作品ですね。ただ、せっかくのアークのキャラクターがもったいないというか、あえてオカルト要素を入れる必要がないというのが惜しい。

他のアークものの短編を読んでいないので何とも言えないのですが、サム・ホーソーンものの短編ほどの切れ味は残念ながら感じられませんでした。ちょっと残念です。

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次はぜひ、『レオポルド警部の事件簿』が読みたいのですが……どうにかならないものかなあ。