レイモンド・チャンドラー『高い窓』(1943)

高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

盗まれた古い金貨を取り戻して欲しいという老婦人の依頼を受けた私は、ひとまず彼女の息子のいなくなった妻を探すことにした。しかし、事件の背景では様々な意図や偶然が、複雑な様相を呈し始めていた。

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チャンドラーは長編小説を書くとき、短編小説のプロットをいくつか組み合わせて執筆したというのを何かで読んだか聞いたかしたような気がするのですが、その最たる例が『長いお別れ』(今は『ロング・グッドバイ』と書くのが正しいのかな?)でしょう。本作『高い窓』においてもその傾向はありますが、あらすじを説明しにくいったらないですね。

基本的に、マーロウがどこかに出かけて行って人に話を聞いたり、死体にぶつかったりする話。おおよそですが、短編二本分のプロット(①老婦人とその秘書の話、②古い金貨の話)に分解できます。が、分析して見るとそのばらばらっぷりにちょっと悲しくなる。①をメインプロット、②をサブプロットにしてもっとうまい具合に絡ませていけば、プロットで読ませる作品になるのに。解決は別個とかありえないな。
まあ、「マーロウかっこいい」の一言に付きますね。『長いお別れ』よりは尺が短いので読むのが楽というのはあります。

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ラストで、「お前とカパブランカ」というセリフがあります。カパブランカの凄絶な棋譜をなぞりながら自宅でくつろぐマーロウが、夜中に鏡を見つめながらつぶやくそれです。この「お前」というのは、通常マーロウ自身のことを指すと解釈されていますが、これが、「真犯人」のことを指すという解釈もありではないかとちょっと思いました。「鏡」の向こう側の自分に「対局者=盤面の敵」を見ているのではないか?
まあ、「(カパブランカの)美しく、冷酷で、無情なチェス。その情け容赦のない無言の厳しさは、身の毛がよだつほどだった。」と書いていて、「カパブランカ=犯人」と見るべきでしょうから、「お前=マーロウ」の方が正しいとも言えますが。